寒行

2012.02.01 (Wed)




自宅で夕食を取り、

また、病院へ向かうために

玄関のカギを掛けていた時のことだ。



「ん? あっ....。間違いない。」

わたしは嬉しくて、

小走りに道へ向かった。



お坊さまたちの

輪唱のようなお経が

鈴の音とともに

日没後の町に

波のように近づいてくる。



「寒行」だ。







わたしは、

この街のこの寒行が好き。



古く色焼けした菅笠に

黒い袈裟

白い足袋と

わらじ。

右手に鈴

左手に色焼けした提灯。



道の左右を

間隔をあけて輪唱しながら歩く

お坊さまたちが揺らす

提灯のあかり。



鈴の音と

輪唱を唄っているかのようなお経が

重なり合って

波のように

わたしに近づいて

わたしを追い越して行く。







子供の時から

この音の波を聞いたら、

お金を握って家を飛び出した。



わたしは、

家族で誰よりも早く

遠くから近づくこの音を

聴きとることができた。



誰より早く

家を飛び出した。



やってくるお坊さまの

横に立ち、

手を合わす。


お坊さまが立ち止まり、

首の黒い袋を

さりげなく拡げる。


わたしはそこに

心ばかりのお陰さま銭を

そっと入れる。


お坊さまが鈴を鳴らし、

右手だけで拝し

さらに大きな声で朗々と唄うように

また歩きはじめる。



わたしは、次のお坊さまを待つ。

西の空はまだ山際がうっすらと

紫色をしている。



冷たい風。

雪の年もある。









何故だかわからない。

なぜだか、

この寒行が

子供のころから

ずっと、ずっと好きなのだ。





「とうちゃんに力を貸して下さい。

とうちゃんを支えられるよう、

私に力を貸して下さい。」




鈴の音とお経の響く夕暮れに

わたしは、

お願いをした。











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