東平(とうなる)

2015.10.08 (Thu)










それは天に向けてそびえ立つ巨大な機械装置の
一個のボルトを思わせる冷ややかで硬質な三十分だった。







それだけの建物が予告編つきの三本立て映画みたいに丘の上に収まっている。






彼女の髪は髪留めで後ろにまとめられ、ちいさなかたちのいい耳が露出していた。
さっきできたばかりのようなすてきな耳だった。







僕はベッドの隅に座って、あたりをもう一度ゆっくりと見回し、耳を澄ませる。
でも何も聞こえない。
それは盗掘者に死体を運び去られたあとの古代の墳墓のように見える。








大きなグラスに氷水をついだ。
そのからからという音がすみれの混乱した頭の中で、
洞窟に閉じこめられた盗賊のうめき声みたいにうつろに反響した。









どうしてかはわからないが、
自分のからだにぴたりとあったくぼみを壁の隅にみつけたときのような
心地良さがそこにはあった。







リー・コーニッツの古い十インチ盤をターンテーブルに載せ、
机に向かって文章を書いていると、
時間は僕のまわりを心地よく穏やかに過ぎ去っていった。
まるでぴたりとサイズの合ったひとがたに自分を埋め込んだような心持ちだった。



   *  *  *

賞がもらえるとかもらえないとか
そんなことは私には関係がない。
17歳で処女作に出会ってから、
彼の作品と一緒に歳を重ねてきた。
私の肝や脳や血そのもの、
「わたし」という細胞の一つ一つに
彼のメタファーが細かく埋め込まれて
「わたし」は作られているのだ。








                        


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